C原産地は移る
「甲斐犬」柳沢琢郎氏S41.9.10著(抜粋)
甲斐犬を語るとき、原産地「芦安村」の名を忘れることはできません。新しくこの犬に
興味をおぼえる人たちは、一度はこの村の土を踏んでみたく思うことでありましょう。
しかし山梨県の秘境といわれたことは昔のことで、今日では甲府から自動車なら
一時間たらずで行くことが出来ます。せっかく訪ねてみても甲斐犬におめにかかること
ができないのが今の芦安村の現状であります。
部落中で虎毛の犬を二、三みることはできますが純血の程は知ることができず、往時
の甲斐犬村は昔語りとなってしまいました。
カモシカは天然記念物となり、他の鳥獣も少なくなり、甲斐犬を使用する猟師もおりま
せん。ですからこの犬の必要性を認め、あるいはこの犬たちの性格を愛する人たちも
極めて少ないのです。
原産地は完全に壊滅したと考えてよろしいでしょう。近年の甲斐犬展覧会にも原産地
からの出陳は全然ありません。今にして思えば愛護会の発会は時機を得ました。あの
ときを失したらば甲斐犬の保存は取り返しのつかないことになっていたことと
思われます。
全滅に等しい芦安村の中で、ただ一頭だけ残っている老犬をご紹介いたします。
クロ号・黒虎毛・差尾・♀
28歳7ヶ月・昭和13年(1938).1月生
目も耳も鼻も機能せず触覚をたよりに生きている。体に触れると威嚇するので冬毛もとってやれない。
人間の年になおすと130歳くらいになろう。たぶん、ギネスブック入りだ。
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