野武虎コラム [
糞(くそ)を食う
平成17年11月11日
 小生ではない。犬のことだ。

 前に飼っていたロットのポチと、近くの公園を散歩していたときのことだ。

 いきなり猫の糞をみつけたポチは、嬉々としてそれを顔中にぬたくりつけた

のだ。 こちらとしてはその異臭に辟易としてるのに、まさに本人は得意顔を

している。 さっそく水飲み場で応急処理して、そそくさと家に帰ったことが思

い出される。

 今いるロットの鼻子は自分の排出したのを、すきあればあっという間にたい

らげてしまう。自分の腹から出したものを再度腹に収める、いわばリサイクル

犬なのだ。 そうはいっても人間からみると、いささかおぞましい。

 また、ブルマスの耳子は猫の糞には目がない。散歩中に発見するやいな

や猛烈にリードを引いて一口でぱっくりだ。これにはお手上げだ。

 食糞症という用語があるが、糞を食うのは病とは言えない。これは犬にとっ

てはわれわれがゲテモノ料理を食すよりも、もっとスタンダードなものだと

考える。 というのは母犬が生まれた仔犬の糞を食べてきれいにするのは

ごく普通なのだ。 だから、食糞にあらゆる諸策を講じてもそれを止めさせる

決定打はないといえよう。

 犬ゾリで破天荒な冒険をした植村直己さんの「北極圏12000キロ」(文春文

庫)を読むと、冒険中にエスキモー犬たちは食糧が足りなくなると、他の犬が

排出する糞を競って食べる。植村さんの排出した特上の糞はお気に入りの

仔犬コンノットに独占して食べさせたそうだ。

 テレビで畑正憲さんが、いやがる?愛犬と彼流の長いディープキッスをした

のを見たことがあるが、いやはやこれはムツゴロウさんだけの世界だろう。

 小生にはとてもできない。



次に文芸春秋「
犬のいる暮らし」より壇ふみさんのエッセイでウンチが大好きなゴードンセッターのバジルちゃんのおはなしを、抜粋して引用します。

 『あるとき、人気のない公園でバジルとボール遊びをして

いたら知らないオジサンがモソッとやってきて、片隅のベンチ

で新聞を広げた。新聞の影からチラチラこちらをうかがってい

るふうである。

 犬がお嫌いなのだろうか。そう思ってボールをオジサンから

一番遠いところへ投げるようにする。

 だが、それでもオジサンは目障りだったらしく今度はベンチ

の陰に隠れて新聞を読み始めた。

 しばらくして、ふと振り返るとオジサンが公園を出て行くと

ころだった。 やっぱり不愉快で場所を移動したのだろうか。

 もう一度ボールを思いっきり投げる。するとボールに一目散

に走り出したかにみえたバジルが途中でつと方向を変え、オジ

サンがしゃがみ込んでたベンチの陰に消えた。

 「バジルッ!」と、私は鋭く叫んで全速力で駆け寄った。

 毒入りの肉団子でも置いてあるかもしれない。 バジルは私

が近づくとパッとその場から飛びのいた。 しかしいけない。

もう口がモグモグ動いてる。

 恐る恐るベンチの後ろに回ってみる。たちまち絶望にうちの

めされた。 ウンチなのである。新聞紙が少しめくれていて、

その下から数枚のテッシュペーパーとともにウンチが覗いてい

るのだ。』




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