小生ではない。犬のことだ。
前に飼っていたロットのポチと、近くの公園を散歩していたときのことだ。
いきなり猫の糞をみつけたポチは、嬉々としてそれを顔中にぬたくりつけた
のだ。 こちらとしてはその異臭に辟易としてるのに、まさに本人は得意顔を
している。 さっそく水飲み場で応急処理して、そそくさと家に帰ったことが思
い出される。
今いるロットの鼻子は自分の排出したのを、すきあればあっという間にたい
らげてしまう。自分の腹から出したものを再度腹に収める、いわばリサイクル
犬なのだ。 そうはいっても人間からみると、いささかおぞましい。
また、ブルマスの耳子は猫の糞には目がない。散歩中に発見するやいな
や猛烈にリードを引いて一口でぱっくりだ。これにはお手上げだ。
食糞症という用語があるが、糞を食うのは病とは言えない。これは犬にとっ
てはわれわれがゲテモノ料理を食すよりも、もっとスタンダードなものだと
考える。 というのは母犬が生まれた仔犬の糞を食べてきれいにするのは
ごく普通なのだ。 だから、食糞にあらゆる諸策を講じてもそれを止めさせる
決定打はないといえよう。
犬ゾリで破天荒な冒険をした植村直己さんの「北極圏12000キロ」(文春文
庫)を読むと、冒険中にエスキモー犬たちは食糧が足りなくなると、他の犬が
排出する糞を競って食べる。植村さんの排出した特上の糞はお気に入りの
仔犬コンノットに独占して食べさせたそうだ。
テレビで畑正憲さんが、いやがる?愛犬と彼流の長いディープキッスをした
のを見たことがあるが、いやはやこれはムツゴロウさんだけの世界だろう。
小生にはとてもできない。
次に文芸春秋「犬のいる暮らし」より壇ふみさんのエッセイでウンチが大好きなゴードンセッターのバジルちゃんのおはなしを、抜粋して引用します。
『あるとき、人気のない公園でバジルとボール遊びをして
いたら知らないオジサンがモソッとやってきて、片隅のベンチ
で新聞を広げた。新聞の影からチラチラこちらをうかがってい
るふうである。
犬がお嫌いなのだろうか。そう思ってボールをオジサンから
一番遠いところへ投げるようにする。
だが、それでもオジサンは目障りだったらしく今度はベンチ
の陰に隠れて新聞を読み始めた。
しばらくして、ふと振り返るとオジサンが公園を出て行くと
ころだった。 やっぱり不愉快で場所を移動したのだろうか。
もう一度ボールを思いっきり投げる。するとボールに一目散
に走り出したかにみえたバジルが途中でつと方向を変え、オジ
サンがしゃがみ込んでたベンチの陰に消えた。
「バジルッ!」と、私は鋭く叫んで全速力で駆け寄った。
毒入りの肉団子でも置いてあるかもしれない。 バジルは私
が近づくとパッとその場から飛びのいた。 しかしいけない。
もう口がモグモグ動いてる。
恐る恐るベンチの後ろに回ってみる。たちまち絶望にうちの
めされた。 ウンチなのである。新聞紙が少しめくれていて、
その下から数枚のテッシュペーパーとともにウンチが覗いてい
るのだ。』
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